完熟いちご菓子研究所について
納得できるいちごのために
- 長く製菓業に携わる中で、毎年冬から春の時期に不満に感じることがありました。それは、洋菓子の主力素材ともいえる「いちご」についてです。
私たち菓子専門店は製菓用のいちごを青果市場より仕入れて使用しますが、これらはスーパーなどのいちごと比べ、サイズや形、色が揃っていて比較的日持ちする便利ないちごです。
しかし、時期により天候の影響で収穫地や品種が変わったり、クオリティが安定しないため、商品の味にバラつきが生じることがありました。
特にクリスマスや年末年始などの需要期は品薄となり確保に苦労する上、仕入れの相場がとても適正とは言えない価格(通常価格の3~5倍)になります。そして何より違和感を感じていたのは、流通対応の必要性から早期収穫されて、果肉が硬く糖度も十分でない果実を使い続けなければならないということでした。 - いちごはお子様や女性はもちろん、男性や年配の方も全ての人が大好きな人気No.1フルーツ。この状況をなんとかできないか?
菓子専門店である私たちが本当に美味しい菓子を作るには、甘酸っぱくてジューシーな果実本来の美味しさが味わえるいちごを使いたい!そこで考え悩んだ末、甘くて酸味もあり、果肉が柔らかくてジューシーな、最高に美味しいいちごを自分たちで作ろうと考えました。
そうと決まれば実家で果実栽培の経験を持つスタッフや、地域の有志で福岡に飛び、高品質いちご作りの巨匠と言われる農業技術管理指導士の宮崎先生に師事し、その指導のもと、旨味が濃縮されたいちごを作るために土づくりから取り組みました。 - 道のりは容易ではありませんでしたが、様々な問題を一つひとつ解決し、ようやく完熟いちごを収穫できるようになりました。
朝採りの完熟いちごが工房に入ってくると、フレッシュな甘い香りで一杯になります。仕入れたものとは違い、果物の力を感じる香りは、お菓子作りにも力を与えます。また、原料作りの現場がそばにあるという環境は、新しいお菓子のインスピレーションを生み、活気が生まれました。
いちご栽培はとても大変な作業ですが、「原材料の生産」から「お菓子への加工」、「納得できる商品の販売」まで、一貫して責任を持って管理できるようになりました。それは、より一層、製品の安心安全、品質の向上、安定化に繋がり、「完熟いちご菓子研究所」として美味しく高品質な商品をいつでも提供することができるようになったのです。
- 木質バイオマスペレットボイラー
- 地元の間伐材を活用した木質バイオマスペレットを使用しています。木質ペレットを燃焼するときに発生する二酸化炭素は木の成長過程で吸収したものなので、燃焼しても二酸化炭素を増加させないクリーンエネルギーとされます。間伐材利用で山の再生も助ける、循環型の環境にやさしいエネルギーモデルです。
- 私たちは兵庫県北部の養父市八鹿町で菓子専門店を営んできました。慶応四年の創業以来、147年もの長きにわたり、この地域の人々に支え続けていただいていることに、とても感謝しています。
その感謝すべき地域のため、菓子業を営む私たちに、今何か恩返しできることはないだろうか?と、ずっと考えていました。 - とは言え、日々の業務を維持しながら限られた条件の中で、なかなか長期間継続していける良い案が浮かびません。
それならば、業務を維持する根幹的な要素の中で地域に役立つこをしようと思い立ち、2014年、思い切って熱源エネルギーを変換することにしました。
お菓子作りには火力のエネルギーが必要です。
今までは石油系燃焼システムのボイラーでしたが、それを地元間伐材などの豊富な地域資源を活用した、木質バイオマスペレットボイラーにしました。
これにより、菓子製造からいちご栽培まで通年必要な火力エネルギーは、地域資源を活用・消費、地域の木質バイオマス関連企業に資金を支払うことで、地域経済の循環にも寄与していくことができるようになりました。
また、燃焼成分の違いからCO2排出も大幅に削減され、カーボンオフセット型企業となることもできたのです。
私たちは美味しさを届けるだけでなく、将来の環境保全に繋がる地球に優しい企業、そしてサスティナブルな菓子製造施設でありたいと考えています。 - 次に、地域そのものの活性化です。
八鹿というエリアは日本各地にある過疎化しているエリアの一つで、若者は仕事が豊富な都市部へ働きに出ることが多く、地元に残る未来の担い手は年々少なくなってきました。
それはこの地に支えられてきた私たちにとっては、とても寂しいことでした。
八鹿はのどかで、四季豊かな山並みに囲まれた土地ですが、あるとき、この変わらない風景が、県外町外から来た方々に「きれいな風景、自然があり、心が洗われるようだ」と非常に満足していただけることに気づきました。
私たちには見慣れた景色でも、都市にいる人たちの目から見ると、まったく異なる印象を与えているということに驚かされました。
何かアクションを起こし、この地の魅力を発信して、もっと都市から八鹿に来てもらえることができれば。
そうすれば、地域が活性化し、仕事が増え、若者も八鹿に残る可能性が高くなってくるのではないか、と感じています。
この「完熟いちご菓子研究所」は、お菓子作りへの愛情から、農業と菓子を連携させるために生まれた最初の小さなアクションですが、願わくばそれだけにとどまらず、私たちがこよなく愛する八鹿という地のために、都市から観光に来ていただいたり、地元の若者の新たな雇用を生み出すというような、あらゆる人を呼び寄せるための「八鹿活性化研究所」にもなっていきたいと考えています。